United States of America (2005.3)
Boston
3月21日(月)
以前の留学時代を含めて、ヨーロッパ内は隈なく回っているが、アメリカはニューヨークに遊びに行ったくらいである。今回、知人が何人かいることもあって以前から行きたいと思っていた、ボストンとワシントンを訪れることとした。
ひいきにしているヴァージン・アトランティックでヒースローからボストンへと飛ぶ。大陸間移動といっても、ロンドンから東海岸までは7時間程度で行ける。日本に比べればはるかに近い。
入国審査は、噂には聞いていたがやはり凄い行列だった。話に聞いているとおり、外国人は全員、指紋と顔写真を撮られる。かなり身構えていたせいもあって、質問は思っていたほど執拗なものではなかったが、単なる旅行者でない場合は大変かもしれない。
ボストンでは、大学の同級生で、経済産業省からハーヴァードに留学中のO君の家に泊めてもらうこととなっている。まずはボストン空港から地下鉄を乗り継いでハーヴァードの駅まで行かねばならないのだが、空港から地下鉄の駅までバスに乗らねばならず、少々てこずった。同じ英語圏の国でも、やはり所変わると微妙に勝手も違う。
ハーヴァードは、アメリカというよりはむしろ、ヨーロッパの住宅地を想像させるような、風情のある街並みだ。近くの高級ホテルで、クリントン夫妻も泊まったというCharles HotelでO夫妻と待ち合わせをする。そしてLegal Seafoodという、ボストンでは代表的なシーフードレストランに連れて行ってもらう。名物のクラムチャウダーはやはり絶品であったし、3種類の牡蠣が盛り合わさった生牡蠣のプレートもなかなかの迫力。
Samuel Adamsという地ビールも美味しい。
3月22日(火)
今日はいよいよ、ハーヴァード大学の見学。私は各地で、大学を見るのが結構好きだが、何と言ってもここは別格であろう。やはり元同級生で、現在は客員研究員として来ているF君に案内をしてもらう。彼も何度となく人を案内しているらしく、ツアーガイド並みに話が詰まっている。ハーヴァードに来たら是非訪れたいと思っていたのは、同大学の付属美術館であるフォッグ美術館である。ここには、私の最も敬愛するRossettiの、Blessed Damozel, Sea Spell, La Donna del Finestraといった傑作が展示されている。
ハーヴァードはイギリスの大学と比べると非常にオープンで、部外者もほとんどの校舎の中を自由に行き来できるし、授業に参加することさえできる。この日たまたま、北岡国連大使のセミナーがあり、これを聴講した。国連安保理改革がテーマだったが、外交官としては当然の論調とはいえ、少々楽観的過ぎるように聞こえた。
夕方、このすぐ近くにある、もう一つの世界的な大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)を見学に行く。古風なハーヴァードのキャンパスとはうってかわって、現代的な、斬新なデザインの建物が立ち並ぶ。大学に面する、夕暮れのチャールズ川の光景はまことに美しかった。
ヨーロッパにも似た落ち着いた佇まいを見せる、ハーヴァード大学付近の街並み

世界最高の大学、ハーヴァードの構内

理科系大学の最高峰、マサチューセッツ工科大学(MIT)の個性豊かなキャンパス




ボストンのシンボル、ハンコック・タワーとチャールズ川の光景


3月23日(水)
ボストンは、イギリスからの独立へと至る一連の事件の舞台となった、歴史的な街だ。歴史といっても、二百年強遡るに過ぎず、ヨーロッパからすればそれほど古いわけではないが、アメリカの場合はこれが何しろ国の始まりなのである。こうした史跡を巡る「Freedom Trail」がボストン観光の目玉となっている。街の真ん中の公園ボストン・コモンからスタートし、近くのグラナリー墓地(Granary Burying Ground)には、Samuel Adams, John Hancockといった、アメリカ建国に重要な役割を果たしたボストン出身者達、さらにBenjamin Franklinの墓もある。順路の中で特に見ごたえがあるのは、Old State Houseだ。ここには、独立宣言(Declaration
of Independence)が読み上げられたバルコニーがある。また、内部は博物館になっていて、独立前後の歴史がよくわかる。有名なボストン茶会事件の現場にあった紅茶の実物まで展示されている。
この後、折角なので、ボストン茶会事件の船自体の展示を見ようと港まで歩いていったが、残念ながら既に公開は終了しており、船の残骸が残るのみであった。
また、街のシンボルであるJohn Hancock Towerに登ろうとしたが、これも一般入場はもはや行っていないということであった。「9月11日」の影響なのだろうか。ただし、この近くにあるTrinity Churchでは、何気なく入ったところ嬉しい驚きがあった。Burne-Jonesのデザインによる、William Morris商会作成の、輝かしいステンドグラスである。
この後、ボストンの誇るMuseum of Fine Artのコレクションをしばし楽しみ、そしてボストン・シンフォニーの公開リハーサルへ行く。ボストン・シンフォニーはかつて小澤征爾が音楽監督を務めていたアメリカ屈指の交響楽団であるが、リハーサルに観客を入れるというユニークな試みを行っている。リハーサルなので演奏者達は普段着のままであるし、指揮者が演奏の一部を繰り返させたりもするが、本番さながらの質の演奏を極めて安く楽しむことができる。また、通常はリハーサルを見ることは無いだけに、指揮者が微調整を行っていく過程をも知ることができるこうした機会は逆に貴重かもしれない。
帰りには雪が降り出していた。アメリカの北部はやはり、イギリスよりもかなり寒い。
3月24日(木)
Museum of Fine Artに規模では及ばないが、その質の高さではひけをとらない、Isabella S Gardner Museumに行く。大富豪夫人であったイザベラ・ガードナーのコレクションを、このために建てた邸宅の中に展示しており、邸宅の美しい中庭と珠玉のような美術作品の織り成す調和が素晴らしい。また、ここのカフェで食べた、Chicken Pot Pieは、驚くほど、絶妙な味であった。
ボストンを発ち、ワシントンDCへと向かう。アメリカの国内線の飛行機は、左一列、右二列の座席で、随分と狭い。飛行機が目的地に近づくと、「Nation’s Capitalへの着陸の30分前からは、連邦法により席を立つことが禁じられています」というアナウンスが流れる。着陸直前はシートベルト着用というのはどの飛行機でもそうだと思うが、わざわざこうしたアナウンスがなされると、「世界の首都」にこれからいよいよ降り立つのだという実感がわいてくる。
DCでは、役所の同期のWに迎えに来てもらう。彼の家に泊めてもらうこととなっているのである。彼の家はPentagonの近くの素晴らしいマンションにある。その近くの韓国料理屋で食事をしたが、久しぶりの焼肉はやはり美味しかった。
Washington DC
3月25日(金)
ワシントンの中心部へと赴く。大統領行政予算局(Office of Management and Budget)のDavidという人と面会の約束をしているのである。
OMBは、ホワイトハウスのすぐ近くの官庁街にある。ホワイトハウスは現在は観光客に公開しておらず、柵の外から遠めに眺めるだけだが、それでもやはり感慨がある。
Davidは、メールにはなかなか返事してくれないが、基本的に良い人で、会うとまず、留守中の上司の部屋に私を連れて行き、そこの窓から、ホワイトハウスを眼下にする眺望を楽しませてくれた。彼曰く、以前であれば即座に私をホワイトハウスに連れて行くこともできたものであるが、現在は、彼等でさえ二週間前に許可をとらないとホワイトハウスには入れないということである。その後彼の部屋に戻り、本題についても、非常に有意義な話を聞くことができた。帰り際に、イギリスから買ってきた紅茶をお礼に差し上げたところ、とても喜んでくれた。曰く、「我々も贈り物の文化を取り入れるべきだ。」
この日は、美術館を3軒はしごした後、先輩のKさんのいるIMFにお邪魔する。アメリカはイギリスのようなイースター休暇は無いが、それでもイースター前の金曜日は午後は休むのが普通のようで、IMFも閑散としていた。財務省からも多くの人々がIMFに出向しているが、さすがに皆帰ってしまっている。ただ、この後も食事をする約束をしているM先輩だけは忙しそうに働いておられた。
3月26日(土)
GeorgetownにあるCafe Milanoというイタリアンレストランでブランチをする。店内は明るい雰囲気で、肩肘を張らずに寛ぐことができる。ロンドンでは、イギリス人の味覚に合わせてあるのか、柔らかくしてしまったパスタが多いが、ここのものはしっかりとしたアルデンテだ。
友人のKさんに案内してもらい、DC市内を回る。DCにはSmithsonianと呼ばれる膨大な博物館群がある。その中でも一番の人気を誇るのが航空宇宙博物館で、やはりここに来たらこれは見なければならない。入口のすぐ近くには、実際に触れることのできる「月の石」や、ロケットを始め、さすがに宇宙関係の展示はスケールが大きい。航空関係についても、零戦の実物や、映画「Aviator」でディカプリオが演じて馴染みの深いHoward Hughesに関する展示が興味深い。
夜は、ワシントンの誇る芸術の殿堂であるKennedy Centerでオーケストラのコンサートを聴く。曲目はヴェルディのレクイエム、合唱が圧倒的な迫力だ。
3月27日(日)
朝一番でNational Archives(国立公文書館)に行く。昨日訪れたときは凄い行列で、この日も開館前からかなりの列ができていたが、早く行ったのが功を奏して比較的すんなりと入ることができた。ここを訪れようと思ったきっかけは、最近見た映画「National Treasure」である。ニコラス・ケイジ主演で、「Troy」のヘレネ役で印象に残るダイアン・クリューガーが共演した作品だが、冒頭、まさにこのArchivesの至宝である独立宣言(Declaration of Independence)の原本を主人公が盗み出すところから始まるのである。Archivesの中には、映画で見たのと同様、Declaration of Independenceに加えて、Constitution及びBill of Rightsという、アメリカの歴史上最も重要な三つの文書が公開されている。また、これらのほかにも、例えば原爆に関する資料など、かつてはTop Secretだった文書の閲覧をヴァーチャルに体験することのできる、非常に先進的な展示が設置されている。
昼は、ワシントンの最高級ホテルであり、lobbyingという言葉の生まれる所以ともなった、Willard Hotelへと行く。メインのレストランの方は、高いイースターの特別メニューしかなく敬遠したが、カフェテリアの方も非常にレベルは高かった。
この後、Old Post Office及び、Museum of American Historyを見学する。他の国では見ることができない、まさにアメリカならではの展示であり、歴代大統領夫人の衣装を公開したコーナーなどが興味深い。
夕食は、折角なのでアメリカらしい物が食べたいという私のリクエストに応えて、KさんがOld Ebbit Grillというレストランに連れて行ってくれた。イースターの日曜日ということもあってか、かなり混みあっている。ここの名物はハンバーガーとのこと。イギリスのパブでもハンバーガーは売っているが、やはり本場アメリカで味わいたい。ハンバーガーなのに焼き方を聞いてくるのには驚いた。パンも香ばしく、肉もジューシーで、さすがに美味しい。しかも値段は数ドルで、イギリスであればこれほど美味しくないものでも二倍以上はするだろう。改めて、ドルに対していかにポンドがovervalueされているかが実感できる。
合衆国の首都を代表する名門ホテル、Willardの廊下。かつて、このホテルのフロアで政治家への根回しが盛んに行われたことから、"Lobbying"の語が生まれたとされる。

スミソニアン協会の博物館群の一角、Museum of American History内に展示された、Jackie
Kennedyのドレス

アメリカの民主主義の牙城、Capitol
