アムステルダムからの便り (E女史より)

 4月30日は,女王陛下の公式の誕生日=前ユリアナ女王の誕生日で(現女王の誕生日は 1月)、オランダで、一年中でいちばん盛大なお祭り=国民の祝日です。目玉は、この日ばかりは,誰がどこで何を売ってもよいとかで、市街地の主な通りは、すべてマーケットと化します。さらに野外ステージもそこかしこに設けられ、私の住むアムステルダムの下町ヨルダン地区(アンネ・フランクの家のある方面で,市の中心地西側)では、ステージが1ブロックごとに作られ、れぞれ、互いに負けないくらいの大音量を出すことを競い合っています。天気の方も、10日ほど前までは、毎日雨続きだったのですが、ここ1週間にわかによくなり、次第に気温も上がって、この2,3日は最高の陽気となり、浮かれ気分を大いに盛り上げています。一応、この日は、人びとは、王室の色「オレンジ」を身につけ、女王の誕生日を祝うという習いらしく、オレンジ色の帽子か小さな王冠に、オレンジ色のTシャツに身を包んだ人びとが、街のそこかしこにあふれています。マーケットの方は、もともとは、子供たちが始めたとかいうことで、子供たちもオレンジ色に髪を染めたりして、店番をしています。といっても、この行事、いまでは、すっかり大人の楽しみ、とくに商店にとっての書き入れ時といった感じで、店番の子供たちの表情は決して楽しそうな顔ばかりではなく、商売人の親に言われてしぶしぶ座っている、あるいはパフォーマンスしているといった風が見られることもあります。商業資本のための祭りといった雰囲気は、とくに、アムス最大のメイン・ストリートである、セントラル・ステーションからダム広場に続く、ローキンどおりに見られます。ここは、日本の花見の最盛期と同じくらいの押すな押すなの込みようで、道の両側の出店などに立ち寄る余裕もなく、ひたすら列に続いて歩くしかないといった感じです。私の先生(スウェーデン人、オランダ在住10年)は、市街地の一角に住んでいますが、「この日がきらい」と公言し、ベルギーで行われるたいしておもしろくもないカンファレンスを見つけ、水曜日の夜から、ブラッセルに避難してしまいました。私は、せっかくの国民の休日を楽しまないなんて、協調性のない人(日本人的な評価ですが)だと思ったのですが、今日を迎えて納得。(外国人にとって)一見の価値はありますが、毎年楽しみにするという類のものではないように思います。人びとはただ、カフェの前でひなたぼっこをしながら、ビールをあおるか、大音量のステージの前に集まるか、あるいはまた、両側に並ぶ店の前を黙々と歩くか(ほんとは、この店が楽しみのはずが、あまりに大量の人が移動するために、掘り出し物を、いちいち丁寧に見ている余裕がない!)といった感じです。私は約束していたオランダ人の知りあいとははぐれ、カナダ人の友人と歩いたのですが、彼女は、この祭りには文化がないといって嘆いていました。100年そこそこの歴史のカナダの方が、昼間からお酒を飲んで、知り合い同士と地味に浮かれ騒ぐ(ちょっと矛盾しているけど)、このオランダの祭りより文化や伝統がある、といってました。でも、思うに、これがいかにもオランダという気がします。彼らにとって、伝統、文化などという、たいそうなものは必要なく、ただただ暖かな日のなかで、オレンジというコンセプトを一応つけて、羽目をはずす、というのが目的のようです。ガラクタ市は、オランダ人のいつもの商売癖がここでも出ただけというかんじだと思います。私は、今日がくるまで、なぜ現女王が自分の本当の誕生日を祝日にしないで、あえてこの日を当てたのか、よくわからなかったのですが、いまようやく理解できたように思います。ぽかぽか陽気というのが、この祝日にとって、何よりも大事な必要条件だったようです。そういう意味で、日本でいえばお花見、ケンブリッジだとミッド・サマー・コモンの移動遊園地やストロベリー・フェアに相当する楽しみ、しかも国中で一度にやってしまう花のない花見なのだと思いました。ついでながら、面白いことに、レストランやカフェの多い、ヨルダン地区では、それぞれが、独自の料理(インド、インドネシア、タイ、スペイン、中華もどき)を店の前の屋台で作って売っているので、とっても質のよいエスニック料理を試食できることです。独断と偏見のお勧めは、やはりヨルダン地区。プリンセン運河沿い、および北教会の庶民のガラクタ市をのぞくこと、そしてできれば、ボートに乗って、水上から、街の賑わいを眺めるというのが最高だと思います。ふう、それにしてもうるさい。ここから避難するにも、自転車は使えないし、トラムは使えない。街の外に住んでいる人は、この日は市街地にたどりつくのが大変と言って嘆いていたけど、雑踏の中心地に住んでいると、ここから、どうしたら、脱出できるかばかり考えたくなります。  (4月30日)
 
 その数日後,5月5日は,解放記念日でした。つまり,ナチス・ドイツからの解放を祝する日です。前日の4日の夕方,アムステルダムの中心地,ダム広場の雰囲気はいつもとまったく違いました。特に,女王陛下誕生日にばかさわぎの中心だったのとは,180度変わっていました。前日までそこにあった,観覧車をはじめとする移動遊園地は,きれいさっぱり姿を消し,すでにぞくぞくと戦争犠牲者の慰霊塔を訪れはじめた人々を,警官が整然と誘導していました。そこには,物々しい雰囲気がすでに感じられました。天気の方も,数日来の好天から,次第に曇り勝ちとなり,5日は,しとしとと雨が一日中降りつづく,静かな休日となりました。(敗戦国・日本からやってきた私は,この日は家にこもってじっとしていたので,残念ながら詳しい報告はできません。)

 そうそう,女王陛下誕生日の日は,公園がいいという意見もあります。街中に比べてはるかに静かで,のんびりできる,というのが,お祭りの翌日以降聞いた情報です。(さらに,いまは,チューリップが,咲き乱れ,とってもすばらしい時期です)

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