Italy - Sicilia (2005.4)
4月29日(金)
パレルモの空港で飛行機から降りた瞬間、南国に来たことを一挙に実感する。汗ばむほどの暖かさもさることながら、強烈な日差しで、周囲が光に包まれたように眩しい。空港の向こうには小高い岩山が見える。イギリスではありえない光景だ。そして何より、抜けるように青い空。イギリスではごく稀にしか見ないような、雲ひとつない快晴が、惜しげもなく続く。空港から市内への道の脇にはヤシの木が並び、そしてその奥には、アクアマリーンの地中海が広がっている。
シチリア島は、紀元前はギリシア圏の一部であった。そしてローマ帝国の支配下に入り、中世にはノルマン人、やがてアラブ人が住み着く。こうした歴史の織り成す、多様な文化の蓄積が、この島を独特なものとしている。現代では、映画「ゴッドファーザー」でも知られるマフィアの島として有名だ。
パレルモの旧市街は、古ぼけた建物、狭い路地、干された洗濯物という、典型的な地中海岸の下町風景だ。こうした市街を通って「王宮」(Parazzo Reale)へと向かう。
もちろん現在はイタリアに国王はいないが、この建物は、かつてはノルマンの王宮であり、現在は議会場として使われている。王宮の前の広場はヤシの木が茂っており、異世界の雰囲気。内部に入ると、現在も応接スペースとして利用されている王宮の各部屋は、豪華な家具と壁画で飾られている。そして、金のモザイクで壁面を埋め尽くされたパラティーナ礼拝堂が圧巻だ。
この後、市バスに乗ってモンレアーレ(Monreale)へ。モンレアーレ、直訳すれば「王の山」は、小高い丘の上にある小さな街である。ここにある教会(ドゥオーモ)はシチリアでも有数の見どころだ。付属したキオストロ(周廊・中庭)は美しく静寂な雰囲気を醸し出している。またドゥオーモ内部の、一面を金色で覆われた装飾は、パラティーナ礼拝堂をも上回る。そして、ドゥオーモの屋上からは、丘の麓の街から、遠く海までが一望できる。
市内に戻ったときはもうかなり遅い時間だったが、そのまま海辺まで歩く。海沿いに公園があり、そこから夕暮れの地中海を眺めるのが心地よい。
ノルマン時代の面影を残す王宮

迷路のようなパレルモの旧市街

山中の修道院、モンレアーレ(Monreale)

モンレアーレからパレルモを一望する

4月30日(土)
朝、駅の売店でシチリア名物のArancinoを食べる。リゾットで作ったコロッケのようなもので、中に挽肉とグリーンピースが入っている。何か懐かしい味だ。
パレルモ中央駅から、列車でアグリジェント(Agrigento)へ。片道2時間程度かかるが、道程はまさに絶景。パレルモを出た直後は海沿いを走り、紺碧の海が遠くに見渡せる。その後、内陸部に入ってからも、田園風景や、雄大な岩山など、景色は変化に富む。
アグリジェントの駅を出ると、日差しの強さに驚く。サングラスが必要だというのもよくわかる。
アグリジェントは、ギリシア時代の遺跡がそのまま残る街で、世界遺産にも指定されている。遺跡は、「神殿の谷」と呼ばれる区域にあるが、まずは市内からその途中にある、考古学博物館を訪れる。博物館自体が古代の集会場跡の脇に建てられており、「神殿の谷」とその向こうの海まで見通すことのできる眺めの良い場所だ。展示はなかなかに充実しており、英語の説明もほぼ完備されている。ひとつ目を引いたのは、牛の像を彫りこんだ見事な黄金の杯であったが、これは残念ながらオリジナルではなく複製だと書かれていた。どうも見覚えがあると思ったら、ロンドンを発つ前日に、大英博物館で南イタリアのギリシア社会に関する部屋を「予習」した際、そこで感銘を受けたのがまさにそのオリジナルだったのである。
博物館を見終わった頃、昼食時であったが、この先、「神殿の谷」に食べる場所がありそうには思えない。丁度、近くにVilla Athenaという、映画俳優も泊まるという高級ホテルがあったので、その中のレストランに行くことにした。時間がまだ早かったためか(とはいっても12時半を回っていたが)、客は誰もいなかったが、店員はちゃんと応対してくれた。「カターニア風タリアッテーレ」とかいうメニューがあったので、シチリアの名物かとも思い、それを注文してみる。えびの入ったクリームソース仕立てのパスタで、さすがに絶妙の味であった。
「神殿の谷」は、谷といっても実際には小高い丘の上にある。10を超えるギリシア時代の神殿が集積しており、オリーブの木に囲まれ、遠方には青い海が見える。丘の上に遮蔽物は殆ど無く、強烈な太陽が照りつける。まさに、以前訪れたアテネのアクロポリスを思い起こさせる。入口近くのヘラクレス神殿の列柱の前では、タキシードとウェディングドレスに装った若い男女が、カメラの前でポーズを取っている。地元の若者の記念撮影かもしれないが、宣伝用かもしれない。いずれにしても、「花嫁」の純白のドレスが古代の遺跡と抜けるように青い空によく映えている。
海岸沿いを走る列車の窓から


アグリジェント(Agrigento)。ギリシア時代の遺跡が彼方に見える。

ヘラクレスの神殿。写真撮影をする新郎新婦の姿も。

神殿の谷の向こうには、地中海が広がる。

生い茂るレモンの木

パレルモに戻った後、夕食をとりに市街に繰り出す。ガイドブックに載っていたトラットリアを探して、「ヴッチリア」という細い路地の中に入っていく。パレルモの旧市街の中でも特に、肉屋等の市が並び、庶民の活気の溢れる場所だ。路上を埋め尽くす地元の若者の喧騒に圧倒されながら店を探すが、結局見つからない。閉店してしまったのだろうか。
仕方ないので路地を出て、教会前広場に面した、地元風の客で賑わっている一軒に入る。
ろうそくだけで灯りをともした屋外のテーブルで、日中の暑さが引いた後の夜風に吹かれながら食事をするのは、こうした南国の楽しみだ。カジュアルな感じの店だがメニューの種類は多い。シチリア名物とされるSpaghetti Sarde(イワシのスパゲティ)及び、Pesce Spada(メカジキのグリル)を注文する。イワシのスパゲティは、若干単調であったが、海の香が満ちた素朴な味である。メカジキは、バターとオリーブオイルで簡単に炒め、レモンをかけただけだが、歯ごたえがあり非常に美味しかった。
5月1日(日)
この日はまた朝からパレルモ市内を回るが、日曜日はほとんどの施設が昼までで閉まってしまうため、午前中はかなり忙しいスケジュールとなってしまった。王宮の近くにある、シチリア・ノルマン様式のエレミティ教会、さらに州立美術館と考古学博物館へ。美術館、博物館はいずれも建物自体が古い邸宅風の味のある造りである。市内で発掘された、床一面に及ぶローマ時代のモザイクが圧巻だ。
ここまで見てから、昼食には、折角なのでガイドブックに載っている、比較的高級なレストラン「Cuccagna」に足を延ばす。ウェイターに、肉と魚とどちらが食べたいか、と聞かれ、迷わず魚と答えると、彼は「見ろ」といって店頭に並べてある鮮魚のところへ導く。ウェイターは手頃な大きさの一匹を取り出し、「これでどうだ」という。名前はよくわからないが、シチリア特産だというのでOKを出すと、彼はそのまま魚を厨房に運ばせ、「グリルしろ」と指示した。なかなか豪快だ。
前菜には、この店のお勧め、Risotto Fantasiaという一品を注文する。エビ等の魚介類のリゾットで、クリーミーな味付けが秀逸である。刻んだオレンジの皮がまぶしてあるのが面白く、爽やかな香を加えている。そして、メインには、いよいよ先ほどの魚が運ばれてくる。丸ごとグリルしただけだが、白身の魚肉はほくほくとしており、ほとんど調味しなくても、旨味が溢れてくるようだ。魚というのはこれほど美味しいものかと改めて知った。
出発は夕方であり、まだ時間があるが、見どころは午前中に集中して回ってしまい、日曜日は店も市場も閉まっているので、あまりすることがない。海沿いの公園のベンチで潮風を浴びながらまったりとする。何もしないで過ごすということは普段殆ど無いだけに、こういう時間も旅先ならではの貴重なものかもしれない。
パレルモの日没

