アバディーン (Aberdeen) 1997.9
アバディーンは、北の果ての港街である。しかし、港街にありがちなさびれた情景は無く、落ち着きのある都会の雰囲気を醸し出している。この地方に産する花崗岩で建てられたアバディーン大学・マーシャルカレッジの尖塔に囲まれた姿は、ロンドンのウェストミンスター・パーラメントを思い起こさせる、壮麗なランドマークである。アバディーンはイギリスでも有数の漁港であり、やはり新鮮な魚介類には事欠かない。この街に、「イギリス一おいしい」というフィッシュ・アンド・チップスのレストランがあるらしい。おそらく、「イギリス一のフィッシュ・アンド・チップス」はイギリスの各地にあるのだろうが、とりあえず場所が場所だけに期待が持てる。かくして、街の中心からやや離れたところにあるそのレストランへ向かって、はるばると20分以上も歩いていったのである。そこはファミレスのような雰囲気で、一人でも落ち着いてテーブルに付くことができる。メニューには、さすがに、フィッシュ・アンド・チップスとはいってもいろいろな種類の魚が挙げられている。私はやや珍しいサーモンのフィッシュ・アンド・チップスを注文した。それがイギリス一かどうかはともかくとして、レモンとタルタルソースをたっぷりとかけた新鮮な魚は自分がイギリス滞在中に味わった中では一、二を争うものであったと記憶している。
アバディーンの街自体には、はっきり言って、それほど見所は多くない。むしろ、その周辺のグランピアン地方、とくに、ロイヤル・ディーサイドと呼ばれるディー川周辺の地域は、まさにスコットランドらしい美しいカントリーサイドとして有名である。その中でも最も良く知られているのは、王室の夏季の滞在場所であるバルモラル城であろう。
アバディーンからバスでのんびりと緑の中を走っていき、ひなびたバルモラルのバス停で降りる。小さなツーリスト・インフォメーションがある他は、周囲に何も無く、ただ田園風景の中をディー川の澄んだ流れが貫いているだけである。とても王室の住居のすぐそばとは思えない。このスコットランドの最たる景色の中にいると、現在の王室がバッキンガムよりバルモラルを好むわけがすぐに理解できる。ところが、バルモラル城へ通じる小さな橋のあたりで、何人ものカメラマンが茂みに潜んでいる。そして城への入り口の前まで行くと、閉ざされた門にたくさんの花束が捧げられていた。まさにこのとき、王室はバルモラル城にこもっており(国民的な批判の対象ともなっていた行動である)、そしてマスコミはこぞって王室が出てくるのを待ち構えていたのであった。おかげで、バルモラル城を見学することはできなかったが、印象深い光景を見ることはできたと思う。
さらにディーサイドを行くと、ブレイマーの街に行きつく。ここにはブレイマー城という小さな城があり、またここで毎年開かれるブレイマー・ギャザリングという競技会は、女王も臨席する著名なものである。しかしながら、この年はブレイマー・ギャザリングも中止になったようである。ダイアナ妃の死はウェストミンスターだけでなく遠くスコットランドまで大きな影響を及ぼしたのである。
次回・インヴァネス