スコットランドの旅

 

エディンバラ 1997.8

 

1997年の夏、2年間のイギリス留学へ旅立った私は、そのスタート地点であるエディンバラへ向けて、ヒースロー空港からの乗り継ぎ便に搭乗した。成田から12時間乗ってきたJALのジャンボ機とは比較にならない小さな飛行機は、1時間もせぬうちにエディンバラに到着する。一応、3週間の語学学校に通うことがこの街における第一の目的ではあるが、この滞在は8月、国際的に有名なエディンバラ・フェスティバルの時期に合わせてある。

 エディンバラは、本当に美しい都市である。街は大きく北と南に分かれており、その境目を、ウィーバリー駅を出てすぐに広がる「目抜き通り」のプリンスィズ・ストリート、そして花壇の見事なプリンスィズ・ガーデンズが横切っている。エディンバラのどこからでも目に付くのが、巨大な岩山の上に聳え立つ、堂々たるエディンバラ城の姿である。昼間、夕暮れ、そしてライトアップされた夜と、この城とそれを載せたキャッスル・ロックが、常に絵画的な景観を形作っている。街の南側、エディンバラ城の城下町にあたるオールド・タウンの部分へと向かう坂道からは街のランドマークであるスコット・モニュメントとバルモラルホテルの時計台が印象深い。オールド・タウンでは、石畳で舗装されたロイヤル・マイルが、城とホリルード宮殿を結んでいる。街の外延部は、アーサーズ・シートやカールトン・ヒルといった丘に囲まれており、どちらからも、海まで見渡すことができる。自然に発展してきた街であるにもかかわらず、絵になる要素をすべて適所に配しており、まさに観光地となるべく定められた都市である。

 エディンバラフェスティバルの期間中は、街中が祭りのムード一色に染まる。フェスティバルは、大きく分けて三つのイベントシリーズから成り立っている。第一に、オフィシャルな「エディンバラ・フェスティバル」は、市内の主要なホールを用いて、オペラやコンサートを上演する。また、有名な「ミリタリー・タトゥー」は、エディンバラ城の特設ステージで、世界中から集まった楽団がバグパイプ演奏を披露する、最もエンターテイメント性の強いイベントである。この年はちょうど50周年で、例年にも増して気合の入った演出がなされ、戦車が走り回る戦闘シーンや、城壁からロープを伝って兵隊が降りてくる派手なパフォーマンスが見られた。(ちなみに、このクライマックスで「ブレイブ・ハート」のウォラスに扮した男がロープを伝って着地したが、持っていた剣がロープに引っかかって中々走り出せなかったのが無様だった。)そして、エディンバラフェスティバルの真髄ともいえるのが、「フリンジ」である。街中のホール、学校、教会、酒場等が臨時のイベント会場となり、様々なパフォーマンスが行われる。ジャンルはあらゆるものを含むが、中心を占めるのは、小劇団による演劇である。若手の、セミプロの劇団が多い。「フリンジ」のパフォーマンスは玉石混交だが、オフィシャルな「フェスティバル」のイベントに比べて圧倒的に安く、掘り出し物を探す楽しみがある。例えば「レ・ミゼラブル」は「フリンジ」の中でも人気の演目だが、メンバーが6人ぐらいしかおらず、一人が何役もこなし、さらに道具を運んだり音楽を鳴らしたりまで同時にやっている、大忙しの劇団である。衣装や道具等は当然チープだが、演技は活力に溢れている。また、ある劇団の「テンペスト」を見たが、小劇場の利点を活かして、役者が客席の中まで歩き回り、バケツで水をまいたり、口に含んだにんじんを吹き出したり(当然近くにいた観客にかかってしまう)というクレイジーなパフォーマンスであった。毎日何かしらイベントを見に行っても、全く飽きることのない一ヶ月である。

 

(次回「グラスゴウ」)