北の最果て・ウィック(Wick) 1997.9
インヴァネスからさらに北へ鉄道で4時間・・・ 列車は北ハイランドの無人の荒野を抜け、青く輝くような海岸線を脇にして、最果ての街・ウィックへと付く。ここまでくると、ブリテン島のまさに北の端という感がある。インヴァネスまでは観光地としてメジャーだが、さすがにここまで来る人は限られている。本当にこじんまりとした、村に近い街である。街の中心にあるインフォメーションセンターの隣にあるゲストハウスに宿を取る。おそらくこの小さな街では最高級(?)の宿なのであろうが、ダブルルームのシングルユースで一泊25ポンド(約5000円、当時)の安さ。しかも、見るからに気の良さそうな宿の親父さんは、シングルの客からダブルの料金を取るのに気がとがめたのか(?)、20ポンドに負けてくれた。街の中心の、広々とした、美しい内装のEn Suiteでこの値段は、B&Bのコストパフォーマンスの高いスコットランドの水準においてさえ際立っている。
ウィック自体には、失礼ながら、さほど見るべきものはない。ただ、さらに北を目指す上での足がかりとして、リラックスできるこの街は最適である。唯一、ガイドブックで目を引いたのは、Girnigoe Castleという城の廃墟である。写真を見ると、鮮烈な青い海をバックに、緑の草原の中にぽつりと立つ荒れ果てた城の姿がある。北の果てということもあいまって、これほど詩的なセッティングは中々ない。市から約5Kmとあるので、すでに夕刻ではあったが、歩けない距離ではなかろうと、一路足を向けたのである。
最初の内は住宅地の中を通っていた道は、途中から、牧草地を突っ切る農道となる。車がとうていすれ違えそうにない狭い道である。しかしながら、現実には牧歌的な散歩というわけには行かなかった。夕方ということもあって、羽虫がたくさん頭上に集まってやたらとうっとうしい。仕方がないので、雨も降っていないのに傘をさして頭上をブロックする。両側の牧草地には多くの牛が放牧されている。ふと、歩きながら、何か異様な気配を感じて立ち止まり、左右を見渡すと、いつの間にか牛が集まってきていて、柵の向うからじっとこちらを見ているではないか。そして、私が歩くと、それにつれて、牛達の顔も一斉にこちらへと向きを変えるのである。何だか注目されているようで、非常に気持ちが悪い。そして、行けども行けども、目的地までのマイル表示が減らないのである。5Kmというのは全くウソで、5マイルはあったかもしれない。車か、せめて自転車でもあれば難なく城へ行けたのであろうが、さすがにさびしい道を延々と歩くのが不安になってきた。行くだけなら良いが、帰りにまた同じ道をはるばる歩いてこなくてはならないことを思うと、さすがにうんざりする。結局、城へ行くのは断念して、引き返すこととしたのである。帰る途中、地元の子供達とすれちがうと、子供達が「Did you enjoy Girnigoe castle?」と聞いてくる。さすがに、途中であきらめたとは言えないので、「Yes, very much」などと適当な受け答えをする。結局ただひたすら歩いただけでウィックでの一夜を過ごし、翌朝、さらに北の果てへと旅を続けることとなったのである。