本稿は、私の個人的見解であり、日本、又は英国の財務省の見解を反映するものではありません。



英国財務省について(最終報告)

2006年6月 高田英樹

 

初めに

 本稿は、私が2003年7月より2006年6月まで、英国財務省(HM Treasury)に出向し勤務した過程での経験や、各種資料に基づき、日本の財務省との比較を中心として英国財務省の業務・組織の特徴について報告するものである。客観的な事実の説明が中心だが、それに止まらず、私個人の感想や、日本の財務省に対する提言も含まれている。諸兄からのコメントをいただければ幸いである。なお、一昨年、昨年にそれぞれ「中間報告」「第二次報告」を作成したが、本稿はそれらの改訂版であり、主要な内容に大きな変更はない。また、三つの「付章」を設け、特定のテーマについて詳述することとした。

 財務省は、他の中央官庁と同様、国家において独特の任務を担っており、いわゆる「同業他社」は国内に存在しない。それだけに、他国、特に英国のように、日本に近い経済発展度、政治・行政システムを有する国における、同様の組織との比較は、そのあり方を見直す上で非常に重要といえる。

 Treasuryは、「World-class Finance Ministry」(世界に冠たる財務省)たることをその目標として掲げている。何を基準として財務省の「質」を比較すべきかについては、実はTreasuryの中でも明確な考えはないのだが、仮に、国家の経済的なパフォーマンスを基準とするならば、少なくとも近年においては、英国のTreasuryG7各国の中でも比較的良好な業績を上げているといえる。他方、その基準からは、残念ながら日本の財務省は、過去10年、十分に誇れる成果を上げているとはいえないのではないだろうか。

 もちろんこれは、一面的な見方に過ぎない。そもそも、財務省の政策、あるいは財務省の職員の努力が国家経済に及ぼしうる影響は、実際には極めて限定的なのかもしれない。しかし、公務員は常に、その仕事がどれだけの成果を生み出し、国民の福祉を向上させているか、「結果」への着目を忘れてはならないであろう。いうまでもなく、仕事はそれ自体が目的ではないからだ。

 英国のTreasuryは、以下論じるように、勤務時間がはるかに短いことを初め、様々な面で日本の財務省と相違がある。しかし、結果としてこれらの組織は、ほぼ同様の機能を果たしている。伝統や先入観を捨てて、一度、日本の官庁のあり方を白地から見直してみることは非常に有益であり、本稿がそのひとつの契機となれば幸いである。

 なお、本稿では、日本と比較した上での英国の状況について逐一紹介するが、それは基本的に、議論の材料としての事実を伝えることを目的とするものであり、必ずしもそれが日本と比べて優れている、日本が導入すべきであることを意味するものではない。私が個人的にそのように感じる場合は、文中に明確に記したつもりである。



第一章 英国財務省の概要

第二章 英国財務省の構成

第三章 英国財務省の人事制度

第四章 業務の概観

第五章 勤務形態・職場文化

結び

付章1 英国の金融行政について

付章2 英国の財政制度について

付章3 英国政府におけるスペシャル・アドバイザーについて

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